特発性大腿骨頭壊死症

特発性大腿骨頭壊死症は、大腿骨頭の一部が十分な血液供給を受けられずに壊死する疾患であり、男性は40代、女性は60代に多く発症します。日本では毎年約2000〜3000人が新たに発症しています。壊死が生じただけでは痛みはなく、骨頭に圧潰という変形が生じると痛みを認識します。早期の治療介入が予後に影響を与えるため、症状の認識と早期医療機関の受診が重要です。本疾患は指定難病となっており医療費の助成を受けることが可能です(当院にて診断がついた場合は難病指定医療機関へご紹介しております)。
疾患について
血流が止まるメカニズム
大腿骨頭壊死症は、股関節を構成する「大腿骨頭」への血液供給が途絶えることで発症します。大腿骨頭は太ももの骨の上端にあり、股関節のスムーズな動きに欠かせない球状の構造です。
この部分の血管は細く、他の血管とのつながり(側副血行路)が乏しいため、何らかの原因で血流が阻害されると、その先の骨に酸素や栄養が届かなくなります。
壊死が進行する流れ
血流が止まると、早ければ24~72時間以内に骨髄の細胞が死滅し始めます。骨組織を維持する骨細胞も機能を失い、骨内部に壊死した空間が生じます。
その後、体は自然修復を試みますが、骨を吸収する「破骨細胞」の働きが、骨を再生する「造骨細胞」の働きを上回ることで、骨の構造が脆弱になり、体重がかかるたびに骨が潰れていきます。
原因と症状
外傷性の原因
交通事故や転倒などにより、大腿骨の首部分(大腿骨頸部)が骨折したり、股関節が脱臼することで、骨頭に通じる血管が直接損傷されることがあります。
このような外傷をきっかけに、大腿骨頭壊死症が発症するリスクが高まります。特に重度の骨折や、適切な治療が遅れた場合には、壊死が進行しやすくなります。
非外傷性の原因
外傷がなくても、以下のような要因で血流が妨げられ、壊死が生じることがあります。
✅ ステロイド薬の長期使用
脂肪細胞が肥大し、骨内の圧力が上昇して血管が圧迫される。
✅ 過度のアルコール摂取
血管を直接傷つけたり、血液を凝固しやすくする。
✅ 血液疾患
鎌状赤血球症や血栓症により、血管が詰まりやすくなる。
✅ その他の要因
潜水病(減圧症)や放射線治療の影響など。
主な症状と進行パターン
初期には無症状で、健診の画像検査で偶然見つかることもあります。
病状が進行するにつれて、「歩き始め」や「立ち上がり」などの動作時に股関節の痛みが生じます。さらに進行すると安静時にも痛みを感じ、次第に歩行困難になっていきます。
最終的には骨頭が完全に潰れ、股関節の変形が進行し、日常生活に大きな支障を来します。
診断と治療
診断の流れ
股関節の痛みで受診された場合、まずはレントゲン検査を行います。
ただし、初期段階ではレントゲン画像に明確な異常が現れないことが多く、MRI検査が早期診断の決め手となります。MRIでは血流の遮断された部位を鮮明に描出でき、病変の広がりを把握することが可能です。
また、血液検査により、骨代謝に関する指標や、潜在的な疾患の有無を評価することもあります。
治療法の選択肢
治療は病期・症状・年齢・活動レベルなどを総合的に考慮して決定します。
保存療法(手術を伴わない治療)
手術を行わない保存的な治療としては、まず痛みを和らげるために消炎鎮痛薬を使用します。また、理学療法によって関節の柔軟性や筋力を維持し、日常生活での動作をサポートします。必要に応じて、杖や松葉杖を使って股関節への負担を軽減し、体重がかかるのを制限します。
手術療法
病状が進行している場合には、手術による治療が選択肢となります。骨に小さな穴を開けて血流を回復させる骨穿孔術や、壊死した部分に健康な骨を移植する骨移植術が行われることがあります。さらに、骨頭が潰れてしまった進行例では、人工股関節に置き換える人工股関節置換術が有効です。
予防のために
再発の予防や生活習慣の改善も重要な治療の一環です。ステロイド薬を使用している場合は、可能な限り必要最小限にとどめ、定期的に骨の状態を確認することが求められます。また、過度の飲酒は控え、肝機能や血流に配慮した生活を心がけることが大切です。血流を保つために無理のない範囲で適度な運動を行い、体重の管理を徹底して股関節への負担を軽くすることも効果的です。
まとめ
大腿骨頭壊死症は、放置すると日常生活に大きな制限をもたらす可能性がある疾患です。症状が軽度でも、「年齢のせい」と見過ごさず、早期に専門医の診察を受けることが、関節機能を守る第一歩となります。
当院のご紹介
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およそ250年前から千住の地で親しまれてきた名倉医院の分院として、その歴史の中で培われた知識や技術を土台として最新の医療を提供しております。
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