ベーカー嚢腫

ベーカー嚢腫は、医学的には「膝窩嚢腫(しっかのうしゅ)」とも呼ばれる、膝の裏側にできる液体がたまった袋状の腫れです。膝関節に関連するさまざまな疾患が原因で発症することが多く、整形外科外来でも比較的よく見られる病態です。
膝を横から見た図
原因
ベーカー嚢腫の根本的な原因は、膝関節内に炎症や機械的な異常が生じていることです。代表的な原因疾患には、以下のようなものがあります。
・変形性膝関節症
・関節リウマチ
・痛風や偽痛風
・半月板損傷
・前十字靱帯損傷などの外傷
これらの疾患により膝関節内で炎症が起こると、関節液(滑液)の分泌が増加します。過剰に分泌された滑液が膝関節の後方へと押し出され、袋状に膨らんだ滑液包にたまることで、ベーカー嚢腫が形成されます。
一方向性の弁構造が液体貯留を助長する
膝関節と膝裏の滑液包(腓腹筋内側頭と半膜様筋の間)との間には、関節液が一方向に流れやすい構造が存在します。
つまり、膝関節から膝裏へは滑液が流れ出ますが、逆流しにくい構造となっているため、一度たまった液体が引かずに嚢腫として残ってしまうのです。
症状
膝裏の腫れとつっぱり感
ベーカー嚢腫の主な症状は、膝裏のやわらかい腫れです。ゴルフボールほどの大きさになることもあり、触ると弾力のある腫瘤として感じられます。片側に発症することが多いですが、両側性の場合もあります。
腫れにより、膝の曲げ伸ばしの際に違和感やつっぱり感、圧迫感を訴える方も多く、特に正座や階段昇降で症状が強くなる傾向があります。
重だるさや痛み、しびれを伴うことも
長時間の立位や歩行後に、膝裏の重だるさを感じることがあります。
また、嚢腫が大きくなり周囲の神経や血管を圧迫すると、痛みやしびれを伴うこともあります。
嚢腫が破裂して滑液がふくらはぎに漏れ出すと、突然のふくらはぎの腫れや痛みを引き起こすことがあります。これは「偽性血栓性静脈炎」と呼ばれ、深部静脈血栓症と区別がつきにくいため、注意が必要です。
治療
原因疾患の治療が最優先
ベーカー嚢腫は膝関節の疾患に起因するため、まずは原因疾患の治療も重要です。以下のような保存的治療が行われます。
✅ 消炎鎮痛剤の内服
✅ 関節内ヒアルロン酸注射
✅ 物理療法(温熱療法・電気治療など)
✅ 運動療法による膝の安定化
これらによって関節の炎症を抑えることで、滑液の過剰産生を抑え、嚢腫の自然な縮小が期待されます。
嚢腫への局所治療(穿刺・注入)
嚢腫が大きく症状が強い場合は、穿刺吸引によって中の液体を抜く処置が行われます。必要に応じて、ステロイド薬を注入し、炎症を抑えることもあります。
ただし、再発しやすいため、根本的な治療とはなりません。
手術治療が必要なケースも
保存的治療で症状が改善せず、日常生活に支障をきたす場合には、手術による嚢腫の摘出と膝関節との交通路の遮断を検討します。
しかし、原因となる膝疾患が残っていると再発のリスクもあるため、手術適応については慎重な判断が求められます。
日常生活の注意点
膝に負担がかかる動作(長時間の立位、しゃがみこみ、激しい運動)は避けるようにしましょう。膝を温めることで血流が改善し、慢性的な炎症がやわらぐことがあります。ただし、急性の炎症がある場合は冷却が適しています。急な痛みやふくらはぎの腫れが出現した場合は、血栓との鑑別が必要なため、すぐに医療機関を受診してください。
最後に
ベーカー嚢腫は、膝関節の炎症や損傷によって生じる、滑液の貯留による嚢胞性の腫れです。原因疾患の適切な治療により、多くの場合、症状は改善が期待できます。
膝裏の腫れや違和感を感じたら、早めに整形外科を受診して、正確な診断と適切な対処を受けることが大切です。
当院のご紹介
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およそ250年前から千住の地で親しまれてきた名倉医院の分院として、その歴史の中で培われた知識や技術を土台として最新の医療を提供しております。
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