橈骨近位部骨折

橈骨近位部骨折は、肘関節における橈骨の骨折で、小児に多い橈骨頚部骨折と成人に多い橈骨頭骨折に分けられます。橈骨は肘の曲げ伸ばしや前腕の回旋運動(手のひらを上に向けたり下に向けたりする動き)に不可欠な働きを担っており、適切な治療を受けないと肘の機能障害が生じるリスクが高くなります。主な受傷原因は、転倒・転落時に手をついたり、肘を直接地面に打ちつけることです。骨折と同時に肘の靭帯損傷を合併することもあります。さらに肘関節の脱臼を伴う場合は治療がさらに難しくなることがあります。
主な症状
この部位で骨折すると、肘の曲げ伸ばしだけでなくドアノブを回す・ペットボトルのふたを開けるといった回旋動作に強い支障をきたします。
主な症状は以下の通りです。
✅ 肘の外側の痛み
✅ 腫れや皮下出血(内出血)
✅ 肘の可動域制限
✅ 特に回旋動作時の強い痛み
重度の場合には、肘の変形や神経の圧迫に伴うしびれ、感覚異常などの神経症状を伴うこともあります。
原因とメカニズム
橈骨近位部骨折の原因で最も多いのは、転倒時に手をつくことです。これは整形外科の分野で「FOOSH( Fall Onto an Outstretched Hand )」と呼ばれています。
転倒時に反射的に手を前に出して体を支えようとすると、手首から肘、肩にかけて大きな力が伝わります。このとき、肘が伸びた状態で前腕が回内位(内側を向いた状態)になっていると、橈骨頭には集中した圧力がかかり、骨折を起こしやすくなります。
また肘関節には生理的に軽度の外反角があるため、外側方向への力も加わりやすいのが特徴です。年齢によって骨折の型が異なります。
成人:
橈骨頭骨折が多い。
小児:
骨の成長線(骨端線)が未成熟なため、橈骨頚部に骨折が起こりやすい。
特に御高齢の女性では、骨粗しょう症により骨密度が低下しているため、軽度の転倒でも骨折を起こすリスクが高くなります。
さらに、高エネルギー外傷(スポーツ・交通事故など)では、単独の骨折ではなく以下のような合併損傷を伴うこともあります。
〇 terrible triad injury:
橈骨頭骨折+尺骨鉤状突起骨折+肘の脱臼
〇 Essex-Lopresti損傷:
橈骨頭骨折+前腕骨間膜断裂
+手関節の遠位橈尺関節不安定性
これらは重篤な外傷であり、専門的な診断と治療が必要です。
治療
治療方針は骨折の程度や骨の転位(ずれ)の有無、患者さんの年齢や日常生活の活動レベルに応じて決定されます。
保存療法(非手術)
骨のずれが少なく安定している場合には、ギプスや装具を用いた固定が行われます。
固定期間は一般的に2〜3週間程度で、その後リハビリテーションによって関節の可動域を回復させていきます。
手術
次のような場合には手術が検討されます
・骨折片のずれが大きい場合
・骨片が複数に分かれている(粉砕骨折)
・関節面の不整(段差)を伴う場合
手術方法には以下の2つが主にあります。
〇 観血的整復固定術
金属製のスクリューやプレートによる固定
〇 橈骨頭置換術
骨の損傷が著しく再建困難な場合
最後に
橈骨近位部骨折は、適切な診断と治療、そしてリハビリによって、多くの方が日常生活に復帰可能な外傷です。転倒後に肘の痛みや可動域制限がある場合には、「大丈夫」と自己判断せず、できるだけ早く整形外科を受診してください。
また、適切な運動やカルシウム、ビタミン、ミネラルを豊富に含む食事による骨粗しょう症の予防や、筋力維持のための運動習慣も将来的な骨折リスクを減らす上で非常に重要です。
当院のご紹介
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