上腕二頭筋長頭腱炎

「肩の前側がズキッと痛む」「腕を上げると違和感がある」
こうした症状がある方は、上腕二頭筋腱炎(じょうわんにとうきんけんえん)の可能性があります。
上腕二頭筋とは、いわゆる「力こぶ」を作る筋肉で、その腱(筋肉と骨をつなぐ組織)に炎症が起きることで痛みが発生します。特に、スポーツをしている方や、日常的に腕を上げる機会が多い方に見られやすい疾患です。適切な治療を受ければ改善が見込めるため、早期の対応が大切です。
上腕二頭筋長頭腱(Long head of biceps tendon)の解剖図
原因とメカニズム
◆ 筋肉と腱の構造
上腕二頭筋は「長頭」と「短頭」という2つの部分からなり、とくに長頭腱が肩関節の溝(結節間溝)を通過する際に摩擦や負荷を受けやすくなっています。
◆ 主な原因は“繰り返し動作”
野球のピッチング、水泳、バレーボール、テニスなどのスポーツ、あるいは洗濯物を干す・高い棚のものを取るといった日常動作など腕を繰り返し上げる動作が腱に微細な傷(=微細外傷)を引き起こします。この微細外傷が蓄積することで炎症が起こり、腱が腫れて太くなり、骨の溝の中でこすれてさらに悪化するという悪循環に陥ります。
◆ 慢性化による影響
放置して炎症が慢性化すると、腱が硬くなったり、癒着(組織がくっついてしまうこと)が起こったりして、肩の可動域が制限されることもあります。
◆ 他の疾患と合併しやすい
上腕二頭筋腱炎は単独で起こることは少なく、腱板損傷や肩峰下インピンジメント症候群など、肩の他の病気と同時に発症することが多いです。これらは肩関節のバランスが崩れることで、上腕二頭筋に過剰な負担がかかるためと考えられています。
症状と診断
◆ 代表的な症状
上腕二頭筋腱炎の最も典型的な症状は、肩の前側の痛みです。以下のような動作で痛みが強くなる傾向があります。
・腕を前に上げる
・肘を曲げて力を入れる(例:荷物を持つ)
・髪を洗う、ドアノブを回す
進行すると、安静時や夜間にも痛むようになり、睡眠の質が低下することもあります。
◆ 診断の流れ
まずは医師による問診と診察が行われ、症状の確認とともに、スピードテストやヤーガソンテストといった整形外科的検査で、腱に痛みが誘発されるかを確認します。さらに、画像検査として以下の方法が用いられます。
・超音波検査
腱の腫れや炎症の有無をリアルタイムで確認できます。
・MRI検査
腱の変性や癒着、周囲組織の状態を詳細に評価します。
・レントゲン画像検査
骨の変形や石灰化の有無を確認するために使用されますが、腱自体は映らないため補助的な役割となります。
痛みを誘発する臨床テストやレントゲン写真では通常異常所見は見られません。超音波やMRI画像検査が上腕二頭筋腱の状態を評価するのに役立ちます。
治療と予防
保存療法(手術以外の治療)
治療の基本は保存療法です。症状の段階に応じて、以下のような方法を組み合わせて行います。
① 安静と日常動作の見直し
痛みを誘発する動作を控えることが重要です。スポーツや重労働を一時中止し、肩にかかる負担を減らします。
② 薬物療法
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を内服または外用することで、炎症と痛みを軽減します。長期使用による副作用(特に胃腸障害)には注意が必要です。
③ 物理療法・運動療法
超音波治療や電気刺激療法によって血流を改善し、組織の回復を促進します。可動域訓練や筋力強化トレーニングを段階的に実施します。
④ ストレッチング
肩周囲の筋肉の柔軟性を維持することで、炎症の再発を防ぎます。
手術療法
保存療法で改善しない場合や、腱の部分断裂・完全断裂が認められる場合には、手術を検討します。手術は関節鏡(内視鏡)を用いた低侵襲手術と直視下による腱の縫合や癒着剥離術があります。術式は患者さんの症状やライフスタイルに応じて選択されます。
まとめ
上腕二頭筋腱炎は、適切な診断と治療によって改善が期待できる疾患です。軽度なうちに対処すれば、手術を避けられることも多くあります。肩の前側に違和感や痛みを感じた際は、我慢せずに整形外科専門医の診察を受けてください。
当院のご紹介
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およそ250年前から千住の地で親しまれてきた名倉医院の分院として、その歴史の中で培われた知識や技術を土台として最新の医療を提供しております。
※手術やより高度な治療が必要と判断された場合は、適切な医療機関へご紹介させていただいております。
