小児肘内障

肘内障とは、前腕の「橈骨(とうこつ)」という骨の先端(橈骨頭)が、関節を安定させている「輪状靭帯」から部分的に外れてしまう状態(=亜脱臼)を指します。完全に関節が外れる「脱臼」とは異なり、ズレてはいるものの一部は関節内に残っているため、大きな変形や腫れがないことが特徴です。
なぜ子供に多いのか
1歳から4歳の小児に肘内障が多く見られる理由は、未熟な関節構造にあります。
・靭帯が柔らかく未発達である
・橈骨頭が小さく丸みを帯びている
・骨と靭帯の固定力が弱い
特に、腕を伸ばした状態で急激に引っ張られると、輪状靭帯から橈骨頭が抜けやすくなります。
主な症状
肘内障になったお子さまは、以下のような特徴を示します。
✅ 腕を突然動かさなくなる
✅ 腕をだらんと下げたまま保持する
✅ 肘を軽く曲げたまま固定している
✅ 腕を触られると激しく泣く
✅ 腫れや変形は目立たない
外傷のような明らかな外見の変化が少ないため、周囲の大人が気づくのが遅れることもあります。
発症のメカニズム
発生しやすい状況
肘内障は、日常生活の中で以下のような動作によって生じます。
・転倒しそうな子供の腕を引っ張る
・遊びで両手を持ち上げ回した
・手をつないで急に強く引いた
・寝ている子の手を引いた
解剖学的メカニズム
前腕には橈骨と尺骨の2本の骨があります。通常、橈骨頭は輪状靭帯によって関節内にしっかり保持されています。しかし、手のひらが下向きの状態(回内位)で腕が伸びたまま引っ張られると、橈骨頭が靭帯からずれ、靭帯の一部が骨と骨の間に挟まって戻れなくなることで、亜脱臼が生じます。
診断と治療
診断
整形外科では、まず発生状況と症状から肘内障の診断を行います。多くは問診と視診・触診のみで診断可能ですが、骨折など他の外傷が疑われる場合にはレントゲン検査を併用します。
整復治療
肘内障の治療は、整形外科医による「徒手整復(手技による整復)」が基本です。数秒から十数秒で完了することが多く、整復が成功すればすぐに腕を動かせるようになることもあります。特別な固定や薬物治療は通常不要です。
整復後の注意点
・数日間は無理な動作を控える
・腕を強く引っ張らないようにする
・再発防止のため保護者が慎重に扱う
予防のために
肘内障は、一度発症すると再発しやすい傾向があります。これは、輪状靭帯が一度外れたことにより緩みやすくなっているためです。ただし、5歳頃を境に関節がしっかりしてくるため、年齢とともに再発のリスクは自然に低下していきます。
再発予防のポイント
✅ 子供の手を急に引っ張らない
✅ 転倒しそうな時は体幹を支える
✅ 子供を持ち上げる際は脇の下から
✅ 遊びの中でも腕を引っ張らない
受診の目安
以下のような症状があれば、肘内障の可能性があります。早めの受診が大切です。
・腕を急に動かさなくなった
・腕をだらんと下げて泣いている
・肘や手を触ろうとすると痛がる
・肘内障が起こりやすい状況があった
肘内障は、時間が経つと整復しにくくなる可能性があるため、早期の対応が重要です。
まとめ
肘内障は、幼児に多い亜脱臼の一種で、比較的軽症で済むものの、適切な知識と対応が不可欠な疾患です。
・治療すればすぐに改善が見込める
・放置や誤った処置は悪化の可能性がある
・日常生活の中での接し方が重要
お子さまの健康と安心のために、もしものときは迷わず整形外科を受診し専門医の判断を仰いでください。
当院のご紹介
症状やご不安がある場合は、お気軽にご相談ください。
およそ250年前から千住の地で親しまれてきた名倉医院の分院として、その歴史の中で培われた知識や技術を土台として最新の医療を提供しております。
※手術やより高度な治療が必要と判断された場合は、適切な医療機関へご紹介させていただいております。
