外傷性頚部症候群(むち打ち損傷)

交通事故や急激な衝撃のあとに、首の痛みや違和感を感じる場合「むち打ち損傷(正式には外傷性頚部症候群)」の可能性があります。
むち打ち損傷は、追突事故などで誰にでも起こり得る身近な外傷のひとつです。
原因と症状
むち打ち損傷とは、外力により首が急激に前後へ揺さぶられることで生じる、筋肉や靭帯などの軟部組織の損傷です。
交通事故、特に後方からの追突によって発症することが多く、その他にもスポーツ中の接触や遊園地のアトラクションによる強い揺れなどが原因となる場合があります。
事故の瞬間、体が前方へ押し出される一方で、頭部は慣性の影響で遅れて動くため、頚部に過剰な負荷がかかります。これによって筋肉や靭帯、関節包、神経などが損傷を受け、さまざまな症状が出現します。
代表的な症状には以下が挙げられます:
✅ 首の痛みやこわばり
✅ 肩こりや背中の痛み
✅ 後頭部を中心とした頭痛めまい
✅ 吐き気
✅ 腕のしびれや痛み
✅ 集中力の低下
✅ 倦怠感
これらの症状は、事故直後ではなく数時間~数日経ってから現れることも多く、「事故当日は症状がなかったが、翌朝から首が動かせなくなった」といったケースも少なくありません。
症状の程度には個人差があり、軽度であれば数日から数週間で改善する一方、重症例では数ヶ月から数年にわたり後遺症が残ることもあります。
診断と検査
むち打ち損傷が疑われる場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。特に以下のような症状がある場合は、迅速な受診が推奨されます:
✅ 強い頭痛が続く
✅ 両腕や両脚にしびれがある
✅ 物が二重に見える
✅ 吐き気や嘔吐が続く
✅ 意識の混濁、反応の鈍さがある
医療機関では問診と身体診察を行い、必要に応じてレントゲン検査、CT、MRIなどの画像検査を実施します。これにより骨折や脊髄の損傷の有無を評価します。
治療
むち打ち損傷の治療は、損傷の程度や症状に応じて段階的に進められます。
1. 安静と薬物療法(急性期)
受傷後1〜2週間は安静を基本とし、頚部への負担を最小限に抑えることが重要です。痛みが強い場合には、消炎鎮痛薬を使用します。必要に応じて湿布や外用剤も併用されます。
2. 物理療法
症状が落ち着いてきたら、温熱療法や低周波電気刺激療法などの物理療法を行い、血行を改善し筋肉の緊張を緩和します。
3. リハビリテーション(運動療法)
頚部周囲の筋力回復と柔軟性向上のための運動療法を取り入れる場合もあります。
4. 装具療法
必要に応じて、頚部カラー(ネックカラー)を短期間装着する場合があります。ただし、長期使用は筋力低下を招くおそれがあるため、使用期間は医師の指示に従ってください。
自宅でのセルフケア
自宅でのケアとしては、以下の点を意識することが有効です:
✅ 無理な姿勢での作業や長時間のデスクワークを避ける
✅ 良質な睡眠と十分な休息を心がける
✅ ストレッチや軽い運動を医師の指導のもとで取り入れる
✅ 温かいシャワーや蒸しタオルなどで血行を促す
再発予防と後遺症対策
完全にむち打ち損傷を予防することは難しいものの、以下のような対策でリスクを軽減することが可能です:
◎車のヘッドレストを正しい高さ(頭の中央部に来る位置)に調整する
◎シートベルトを正しく着用する
◎車間距離を適切に保つ
◎スポーツ時には適切な防具を使用する
後遺症としては、慢性的な首の痛みや頭痛、肩こり、倦怠感などが残る場合があります。これらが長期にわたる場合、「外傷性頚部症候群」と診断されることもあります。
回復のために大切なこと
後遺症を残さず回復を目指すには、以下の点が重要です:
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早期診断と治療の開始
軽い症状でも油断せず、早めに整形外科を受診し、適切な評価と治療を受けましょう。 -
治療の継続
症状の改善後も、医師の指導に従ってリハビリや生活習慣の見直しを継続することが、再発防止につながります。 -
生活習慣の調整
姿勢の改善、適度な運動、ストレス管理など、日常のちょっとした工夫が予後に大きな影響を与えます。 -
心理的サポートの活用
長引く痛みによる不安やストレスがある場合には、必要に応じて心理的なケアや相談支援を受けることも大切です。
最後に
むち打ち損傷は、一見すると軽度なけがのように思われがちですが、適切な対応を怠ると、長期間にわたり生活の質に影響を及ぼすことがあります。
交通事故や強い衝撃のあとに首の痛みや違和感を感じた場合には、早めに整形外科を受診し、専門的な治療と指導のもとで、無理のない回復を目指しましょう。
当院のご紹介
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およそ250年前から千住の地で親しまれてきた名倉医院の分院として、その歴史の中で培われた知識や技術を土台として最新の医療を提供しております。
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