橈骨遠位端骨折

手首の骨折は、日常生活の中で最もよく見られる外傷のひとつです。なかでも多いのが「橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)」と呼ばれるもので、前腕の橈骨(親指側の骨)の手首に近い部分が折れる骨折です。
転倒時、とっさに手をついて体を守ろうとする動きが原因となり、年齢にかかわらず誰にでも起こり得ます。特に高齢の方では、骨粗鬆症の影響でわずかな衝撃でも骨折しやすくなります。
橈骨遠位端骨折のレントゲン写真
原因とメカニズム
転倒して手をついたときに起こりやすい
この骨折の主な原因は、転倒時に手を前に出して地面をつくことです。転倒の衝撃が手首に集中し、橈骨の末端に大きな力がかかることで骨折が生じます。
橈骨の遠位端は内部が海綿骨(スポンジ状の骨)で構成されており、衝撃に弱く、特に高齢者や骨が弱くなった方では、わずかな転倒でも骨折が起こりやすくなっています。
手首の角度によって骨折のタイプが異なる
✅ 背屈位での転倒
背屈位(手の甲側に反った状態)での骨折は「コレス骨折」と呼ばれ、最も頻度が高く手首が甲側にずれる典型的な骨折です。
✅ 掌屈位での転倒
掌屈位(手のひら側に曲げた状態)での骨折は「スミス骨折」と呼ばれ、手のひら側にずれる比較的まれなタイプです。
骨の強度による発生リスクの違い
若年者では、交通事故や高所からの転落など強い外力が必要ですが、高齢者では、立っている状態からの軽い転倒でも骨折が起こることがあります。
特に閉経後の女性では、骨密度の低下(骨粗鬆症)が進行しており、骨折リスクが高まります。
症状
✅ 強い痛み
手首周辺に鋭い痛みが生じ、動かすとさらに強く感じます。安静時や夜間も痛むことがあります。
✅ 腫れ
受傷直後から腫れが出始め、時間とともに強くなることがあります。
✅ 変形
手首の見た目が明らかに変わることもあり、特にコレス骨折では「フォーク状変形」と呼ばれる特徴的な形になります。
✅ 可動制限
手首や指がうまく動かせなくなり、物を持つなどの日常動作が困難になります。
骨折の分類と特徴
・関節外骨折
骨折が関節に及ばない比較的単純なタイプ。
・関節内骨折
関節面にまで骨折線が及び、関節の機能回復が難しいケースもあります。
・合併骨折
約6割の症例で、橈骨の隣にある尺骨の骨折や、靱帯・軟骨の損傷を同時に伴うことがあります。
すぐに受診すべき症状
以下の症状があれば、すぐに医療機関を受診してください。
🔴 手首の著しい変形
🔴 指先が青白い、冷たい
🔴 指の感覚が鈍い・ない
🔴 出血が止まらない
🔴 我慢できない強い痛み
治療
骨折のずれの程度、関節への影響、患者さんの年齢や活動レベルによって治療方針が決まります。
保存的治療(非手術)
骨折のずれが軽度の場合や、手術リスクが高い方ではギプス固定などの保存治療が選択されます。固定期間は通常4~6週間。治療中はX線で経過を観察し、骨の癒合を確認します。
手術治療(観血的整復内固定術)
骨折のずれが大きい場合や、関節面の破綻がある場合は手術を行います。一般的には、チタン製のプレートとスクリューを用いた内固定術が選択され、早期からの指のリハビリが可能になります。
回復までの期間とリハビリ
保存療法:3~6ヶ月が目安
手術療法:2~4ヶ月程度
(*個人差があります)
回復には関節の可動域を徐々に回復させていく必要があります。ご自宅でも自主トレーニングを継続していただくことが、早期回復につながります。
予防のために
家の中の転倒対策
✅ 段差の解消
✅ 階段・浴室・玄関への手すり設置
✅ 滑りにくいマットの活用
御高齢の方の転倒はこれらの場所で多く発生しています。
骨粗鬆症の予防と対策
✅ カルシウム・ビタミンDの摂取
✅ 軽い筋力トレーニングやウォーキング
✅ 日光浴(ビタミンDの生成促進)
閉経後の女性や高齢者は、定期的な骨密度検査や専門医による指導を受けましょう。
筋力とバランスの維持
バランス能力や下肢筋力の維持は、転倒予防に直結します。無理のない範囲での継続が重要です。
応急処置
1安静にする
手首を動かさず、負担をかけないようにします。
2冷やす
タオルで包んだ氷などで患部を冷却します(15〜20分程度を目安に)。
3固定する
三角巾やタオルなどで手首を軽く固定します。
4速やかに受診する
痛みが軽くても骨折していることがあるため、必ず整形外科を受診しましょう。
当院のご紹介
症状やご不安がある場合は、お気軽にご相談ください。
およそ250年前から千住の地で親しまれてきた名倉医院の分院として、その歴史の中で培われた知識や技術を土台として最新の医療を提供しております。
※手術やより高度な治療が必要と判断された場合は、適切な医療機関へご紹介させていただいております。
