変形性肘関節症

肘関節は、上腕骨(じょうわんこつ)、尺骨(しゃっこつ)、橈骨(とうこつ)の3本の骨で構成されています。これらの骨の表面は「関節軟骨」という弾力性のある組織で覆われており、骨同士が直接こすれ合わないように守っています。
軟骨はクッションの役割を果たし、関節の動きを滑らかに保ちます。しかし、加齢や外傷、長期間にわたる過度な負荷によって軟骨がすり減ると、骨同士がぶつかり痛みや動きの制限を生じるようになります。一度損なわれた軟骨は再生しにくいため、早期の発見と適切な対処が大切です。
疾患のメカニズム
変形性肘関節症では、軟骨の摩耗と同時に「炎症反応」が起こります。
関節に負担がかかると、関節を包む滑膜(かつまく)が刺激を受け、炎症性物質(TNF-αやIL-1βなど)が分泌されます。これらの物質は軟骨を分解する酵素の働きを促し、さらなる軟骨破壊を引き起こします。
この悪循環により炎症が長引き、慢性的な痛みや関節の動きの制限につながります。さらに進行すると、関節を覆う関節包が硬くなったり、骨の縁に「骨棘(こつきょく)」と呼ばれる突起が形成され、動作の妨げやさらなる痛みを生じます。
炎症を抑えることが治療において重要であるのは、このような背景があるためです。
原因と発症リスク
変形性肘関節症の原因には複数の要素が関与しています。
・外傷歴
肘の骨折や脱臼などの既往は最大のリスク因子です。外傷後に関節の形がわずかに変わるだけでも、将来的に軟骨への負担が増し、発症のきっかけとなることがあります。
・職業や生活習慣
建設業や製造業など肘を酷使する仕事、また野球やテニスのように繰り返し肘を使うスポーツはリスクを高めます。
・年齢と性別
40歳以降で発症しやすく、男性にやや多い傾向があります。これは生活や職業上の要因が関係していると考えられます。
・遺伝的要因
近年、遺伝的素因も発症に関与することが報告されています。家族に関節症の方がいる場合は注意が必要です。
診断
変形性肘関節症の診断には、問診・診察・画像検査を組み合わせて行います。
・問診
痛みの場所・出現する動作・発症時期・過去の外傷歴や職業・スポーツ歴などを詳しく伺います。
・視診、触診、可動域検査
肘の腫れや変形の有無を確認し、どの動きで痛みが出るかを調べます。関節の可動域(曲げ伸ばしの角度)も重要な評価ポイントです。
・画像検査
X線検査(レントゲン)では、関節の隙間の狭小化、骨棘(こつきょく)の形成、骨の変形などを確認します。必要に応じてCT検査やMRI検査を行い、軟骨や周囲組織の状態を詳細に評価します。
こうした診断を通して、症状の程度や進行度を把握し、最適な治療方針を立てていきます。
治療
変形性肘関節症の治療は、大きく保存療法(手術を行わない治療)と手術療法に分けられます。症状の程度や生活の支障度によって選択肢が変わります。
🔴保存療法
・安静・生活指導
肘に過度な負担をかけないように生活動作を工夫します。重い物の持ち運びや繰り返しの動作を避けることが重要です。
・薬物療法
消炎鎮痛薬(NSAIDs)を用いて痛みや炎症を和らげます。必要に応じて外用薬(湿布・塗り薬)も併用します。
・関節注射
ヒアルロン酸製剤やステロイド薬を関節内に注射することで、炎症を抑え痛みを軽減することがあります。
・リハビリテーション
理学療法士によるストレッチや可動域訓練、筋力強化訓練が行われます。関節を硬くしないことが大切です。
🔴手術療法
症状が強く、日常生活に大きな支障をきたす場合には手術が検討されます。
・関節鏡手術
小さな切開から関節内を観察し、遊離体(関節内のかけら)や骨棘を取り除くことで、痛みや可動域制限を改善します。
・骨切り術
関節にかかる負担を軽減するため、骨の形を整える手術が行われることがあります。
・人工関節置換術
重度に進行した場合、肘関節を人工関節に置き換える手術が選択されることもあります。
予防のために
変形性肘関節症を完全に防ぐことは難しいですが、次の工夫でリスクを減らせます。
・肘に過度な負担をかけない
・正しいフォームでスポーツを行う
・ケガをしたら放置せず、早めに治療を
・軽い運動やストレッチで柔軟性を保つ
また、「少しおかしいな」と思った時点で整形外科を受診することが最も大切です。
まとめ
変形性肘関節症は、軟骨の摩耗と炎症反応が複雑に関わりながら進行する疾患です。
軟骨を完全に元通りにすることは難しいものの、早期発見と適切な治療で進行を抑え、症状を改善することが可能です。
肘の痛みや動きにくさを「年齢のせい」と思わず、違和感を感じたら整形外科専門医にご相談ください。正しい診断と治療により、日常生活の快適さを取り戻せる可能性があります。
当院のご紹介
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