上腕骨近位端骨折

「上腕骨近位端骨折(じょうわんこつきんいたんこっせつ)」は転倒して肩を強く打った後に生じることが多い骨折です。
この骨折は、肩に近い部分の腕の骨(上腕骨)が折れ、大人の骨折全体の4〜7%を占める頻度の高いものです。
適切な診断と治療を受ければ、多くの場合は良好な回復が見込めます。本記事では、原因から治療、リハビリ、日常生活での注意点まで詳しく解説します。
上腕骨近位部骨折のレントゲン写真
原因と症状
骨折の原因
最も多いのは 転倒時に手や肘をついて肩に強い力が加わるケースです。
高齢の方では骨粗鬆症(骨がもろくなる病気)が背景にあり、軽い転倒でも骨折が起こりやすくなります。
若年層では、交通事故やスポーツでの強い衝撃、階段からの転落、自転車事故など大きな外力が原因になることが多いです。
主な症状
上腕骨近位端骨折が起こると、次のような症状が現れます。
・肩周囲の強い痛み
・肩から上腕部にかけての腫れと内出血
・腕が上がらないといった機能障害
・重症例では肩の変形、または腋窩神経損傷による手・指のしびれや肩の筋力低下
特に腋窩神経が傷つくと、肩を持ち上げる筋肉(デルタ筋)が働かなくなることがあります。
診断と分類
診断方法
まずはレントゲン(X線)検査で骨折の有無と骨のずれ(転位)の程度を確認します。
骨折の形態が複雑な場合やレントゲンだけでは不十分なときは、CT検査を追加して立体的に骨の状態を把握します。
Neer(ニア)分類
骨折の重症度を判定するために用いられる方法です。上腕骨近位端は以下の4部位に分けられます。
🔴上腕骨頭
🔴大結節
🔴小結節
🔴骨幹部
これらのうち「いくつの部位がずれているか」で1部骨折〜4部骨折に分類します。部位数が増えるほど骨折は複雑で、治療も難しくなります。
治療
保存療法(手術を行わない治療)
骨のずれが少ない場合、多くは保存療法が選択されます。
三角巾やアームスリングで2〜3週間固定し、痛み止めを使いながら骨癒合を待ちます。固定解除後は徐々に肩の動きを回復させるリハビリを開始します。
手術療法
次のような場合には手術が検討されます。
・骨のずれが大きい
・複数部位が骨折している
・若年者や活動性の高い方
手術方法には、プレートやスクリューによる固定術、場合によっては人工肩関節置換術も行われます。術後は医師の指示に従い、段階的にリハビリを進めます。
リハビリテーション
「肩関節拘縮(こうしゅく)」という可動域制限の予防のために大切です。
リハビリの流れは主に次の通りです。
初期:肩甲骨を動かす軽い運動
中期:肩関節の可動域訓練
後期:筋力トレーニング
完全回復までには通常3か月〜1年ほどかかります。焦らず継続することが大切です。
予後や日常生活の注意点
予後と合併症
適切な治療を受ければ、ほとんどの方は日常生活に支障がない程度まで回復します。
ただし以下の合併症に注意が必要です。
⚪️肩関節拘縮(肩が固くなる)
⚪️腋窩神経損傷による筋力低下や感覚障害
⚪️骨の変形治癒
日常生活での注意点
・医師が許可するまでは患側で重い物を持たない
・入浴時は患部を濡らさないように注意
・転倒防止のため、室内の段差解消や手すり設置を推奨
・高齢者は骨粗鬆症治療を同時に行い、再発予防を心がける
まとめ
上腕骨近位端骨折は正しい診断と治療により良好な回復が見込めます。
多くは手術をせずに治療可能ですが、重度の場合は手術が必要になることもあります。
回復の鍵は「早期の受診」と「根気強いリハビリ」です。
肩の痛みや動かしにくさを感じた際は、自己判断せずに整形外科を受診してください。
当院のご紹介
症状やご不安がある場合は、お気軽にご相談ください。
およそ250年前から千住の地で親しまれてきた名倉医院の分院として、その歴史の中で培われた知識や技術を土台として最新の医療を提供しております。
※手術やより高度な治療が必要と判断された場合は、適切な医療機関へご紹介させていただいております。
