大転子滑液包炎

股関節の外側にズキズキとした痛み、特に横向きで寝たときや、階段の上り下りで痛みが増すようであれば、「大転子滑液包炎(だいてんしかつえきほうえん)」の可能性があります。
大転子滑液包炎は、大腿骨の外側にある「大転子」と呼ばれる骨の出っ張り部分の滑液包が炎症を起こした状態です。滑液包とは、関節周囲で骨や腱・筋肉の摩擦を減らすクッションのような役割をもつ小さな袋状の組織です。通常は問題ありませんが、繰り返しの摩擦や圧迫で炎症が起きると、痛みや腫れが発生します。
現在では、滑液包だけでなく周囲の腱(特に中殿筋・小殿筋の腱付着部)の障害も含めて「大転子疼痛症候群(GTPS)」と呼ばれることが多くなってきています。
大転子の位置
症状
大転子滑液包炎における典型的な症状は、股関節の外側に出る痛みです。以下のような動作で痛みが強くなるのが特徴です。
・横向き寝(特に痛い側を下にした時)
・階段の昇り降り
・長時間の歩行や立ち仕事
・椅子からの立ち上がりや足を組む動作
触診では、大転子部に圧痛(押すと痛みを感じる)があります。炎症が強い場合は熱感や腫れが出ることもあります。まれに、太ももの外側や膝方向に痛みが放散することもあり、坐骨神経痛と区別が必要な場合もあります。
原因
大転子滑液包炎は、主に繰り返される摩擦や圧迫が原因で発症します。特に以下のような要因が関係します。
・股関節の内転運動
→ 腸脛靭帯などが滑液包を圧迫
・ランニングや登山などの繰り返し動作
・長時間の横向き寝や硬い床での就寝
・転倒などによる直接的な外傷
さらに、以下のような生体力学的要因も炎症を助長します。
・中・小殿筋など股関節周囲筋の筋力低下
・脚の長さの左右差
・骨盤の歪みや歩行バランスの乱れ
また、関節リウマチや痛風などの炎症性疾患が背景にある場合は、滑液包の炎症リスクが高まります。
※ごくまれに、細菌感染による化膿性滑液包炎もあり、発熱や全身症状が伴う場合は緊急対応が必要です。
治療
大転子滑液包炎の治療は、保存的なアプローチが基本となります。
🔹 炎症を抑える初期対応
・安静と負荷軽減
・NSAIDs(鎮痛薬)の内服・外用
→ただし、長期使用には注意が必要です
・冷却(急性期)・温熱(慢性期)
🔹 運動療法
・股関節周囲の筋力トレーニング
・腸脛靭帯や大腿筋膜張筋のストレッチ
・正しい歩行や姿勢の獲得
🔹 注射療法
・ステロイド注射(超音波ガイド下)
→ 炎症の強い局所に
・ヒアルロン酸注射
→ 組織の潤滑性や滑液包内の保護を目的
🔹 体外衝撃波療法(ESWT)
慢性的な大転子部の痛みに対して、再生促進効果や鎮痛効果を目的に使用されます。
エビデンスは増えてきており、特に保存療法に反応しにくい慢性例に効果が期待される治療法です。
🔹 手術療法(最終手段)
数ヶ月以上の保存療法でも改善しない場合は、滑液包の切除や腱付着部の修復手術が検討されます。
ただし、ほとんどの症例は手術を必要とせずに改善することが多いため、まずは保存療法を根気よく継続することが大切です。
生活習慣の見直し
✅ 体重管理(股関節への負担を減らす)
✅ 横向き睡眠時のクッション使用
✅ ストレッチや筋トレ習慣の継続
✅ 正しい姿勢・歩行の意識
これらのセルフケアは、再発防止にも大きく貢献します。
まとめ
大転子滑液包炎は、股関節外側に痛みを生じる比較的よく見られる疾患です。主な原因は、繰り返される摩擦や圧迫による滑液包の炎症ですが、筋肉や腱の障害を伴うことも多く、総合的な治療が必要です。
多くの症例は保存療法と生活習慣の改善によって症状が改善します。
症状が続く場合は、整形外科専門医の診察を受け、適切な診断と治療を受けましょう。
当院のご紹介
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